妊娠と授乳の両立について、問題ないと言える根拠。
確か2009年の12月に発表された、日本で2番目にBFHに認定された静岡県の石井第一産婦人科の石井廣重ドクターの書かれた論文(毎日新聞等に掲載されましたね)を引用した記事を私は書かせて貰いました。
憶えておられる読者さんも少なくないと思います。
石井廣重ドクターは結論として、「授乳している・していないにかかわらず、院内の統計でも(海外でのデータでも)流産率に有意差は見られなかった。実際に切迫早産の恐れがあれば、回数を減らすなどの配慮は必要だが、そうではないならば、不必要な断乳は避けるべき。」と仰っています。
そもそも、妊娠中におっぱいをあげていたら流産し易くなって危険だから断乳を!という論調は何処から来たのでしょうか?
看護師さんだったらよ~くご存知だと思いますが、産後の退行性変化として、(1)「直母することで、オキシトシンが放出される。」(2)「オキシトシンは子宮を収縮させるホルモンで、脳下垂体から放出される。また、母乳を射出させる働きを持つ。」って系統看護学講座のテキストに記載されていましたよね?
どちらも医療者が大好きな(そういう視点が必要な)エビデンス(=根拠)のあることです。
エビデンスが2つも重複していたら、これは紛うことなく超強力なエビデンスに見えてきちゃいますよね?
でも、ホントにそうなのかしら?
真実を知るためには、「幾つエビデンスが重複していようが違うことだってあるのだ。」という視点、これって結構大事なんですよ。
まだ、分かりませんか?
では、具体的な例を挙げましょうか?
(産婦人科領域でお仕事したことがある方は、少なくとも知ってる筈なんだけどな。)
一生避けて通りたいことですが、世の中には中期中絶ということがあります。
いわゆる堕胎は初期中絶で、妊娠12週までに子宮外に胎児を出すことです。
その処置では、予めラミナリアというもので子宮口を開大させてから、金属のヘラで胎児を掻き出すというものです。(掻爬(そうは)といいます。)
それに対し、中期中絶というのは妊娠12週以降22週までの期間に子宮外に胎児を出すことですが、この時期はもう胎盤が出来ていて、急激に胎児が成長する時期なので、掻爬では胎児を出せないため、分娩と同じ方法で出すしかないのですね。
分娩というからには・・・そうです、陣痛を付けなくてはなりません。
しかし、胎盤が出来てくる、いわゆる安定期には通常、自然に陣痛は発来しませんから、人工的に発来させるのです。
人工的な陣痛発来のためには、予めラミナリアで子宮口を開大させた上で、プロスタグランディン製剤である『プレグランディン®』という膣座薬を定期的に挿入するのです。
翻って考えると、「あれっ?」って思いませんか?
陣痛つまり、間隔が10分間以内の規則的な子宮収縮を起こすのに、何故オキシトシンを使用しないのか?
オキシトシン製剤で有名な商品名としては『アトニンO®』というものがあります。
陣痛誘発や促進には欠かせないお薬です。
(ここから重要です)実はオキシトシンは妊娠各期で感受性が変化するという特性があるのですね。
20週から30週にかけて徐々に感受性が高まりますが、まだ、さほど高くはないので、中期中絶の際に陣痛発来させようとして使用しても子宮収縮は有効レべルに至らないのです。
20週以前なら、感受性が無いに等しい・・・そう、『アトニンO®』では有効陣痛は発来しないので使用されないのです。
ちなみに徐々に高まった感受性は34~36週頃までは、そのレベルから変化はなく、いよいよ高まってくるのは37週以降なんですね。
ちなみに『プレグランディン®』には未熟な子宮頸管を熟化させるという、分娩になくてはならない作用機序を併せ持っています。
そしてそして、この『プレグランディン®』は直母をしても、お母さんのカラダの何処からも放出されることはないのです。
このあたりの作用機序は、産婦人科のドクターや薬剤師さんがお詳しいと思いますので、一度聞いてみられたら良いかと存じます。
込み入った長文になりましたが、ご理解いただけましたでしょうか?
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