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2014年7月27日 (日)

カンガルーケアは本当に危険なのか?

~いつになく、シビアな長文です。気合と根性を入れてお読みください。~
生まれて間もなくの赤ちゃんを、お母さんの胸に抱いて肌と肌が触れ合うカンガルーケア。
あの至福の体験をされた読者さんも大勢いらっしゃるかと存じます。
一方、そのカンガルーケア中に、呼吸停止や重度のチアノーゼを来たし、発見が遅れて重い障害を受けたり、お亡くなりになった赤ちゃんもおられ、複数の裁判が始まっているという現実があります。
当該の赤ちゃん達のお母さんやお父さんのお気持ちはいかばかりかとお察しします。

当該の赤ちゃん達はカンガルーケア中に生命の危機に瀕しているわけですから、この部分だけを切り取ると、カンガルーケアさえしなければ、生命に関わる事象は発生しなかったのではないか?となります。
マスメディアの記者さんはおしなべて文系が多いし、センセーショナルな見出しを付ければ、それだけ人の目にとまりやすいから、「カンガルーケア=危険」
という紋切り型の表現をなさいます。
そして、残念なことに思考停止している方達は、その文言を鵜呑みにされ、「カンガルーケア=危険」ら
しいですから、私は出産の時のカンガルーケアは止めようと思います。・・・なんてことをシレっと仰るようですね。
けど、そもそもカンガルーケアなんて、医療者から妊婦さんに強要するものでもないですから、今後は医療者だって面倒に巻き込まれたくないという心理が働くでしょうから、「あ、そうですか。じゃ、止めましょう。」という展開になりがちでしょうね。
双方納得の上で止めるのですから、それで良いっちゃあ良いのでしょうが、SOLANINは、なんか違うんじゃないかと思います。
 

何故なら、物事の半分しか見ていないからです。
カンガルーケア中に生命の危機に瀕した。…のは、紛れもない事実です。
しかし、カンガルーケアさえしなければ、生命に関わる事象は発生しなかった…のは、果たして事実とは断言できるのか?
事実であるかもしれませんが、そうではないこともあるからです。

生まれたての赤ちゃんが胎外生活に適応するには、一般の方が想像される以上に遥かに時間がかかります。
紛うことなき正常新生児で、おぎゃ~と元気よく泣いて、真っ赤になってグイグイとおっぱいに吸いついても、生まれてから2~6時間くらいは、決して大袈裟ではなく、赤ちゃんの身に何が起こるか分からない時間帯なのです。
それは、カンガルーケアなんてしていない時代から、周産期領域の医療者だったら周知のことです。
読者さんには聞き慣れない言葉でしょうが、コットデス(←赤ちゃんを寝かせる小さなベッドがコット。生まれて間もないうちに、そこで亡くなってしまうこと。)ということは、昔からあります。
カンガルーケアをしなくても、生まれてすぐに新生児室にお預かりしていても、お亡くなりになる赤ちゃんはゼロではないのです。
元気に生まれてきた筈の赤ちゃんがお亡くなりになるのは、あまりにも痛ましい出来事です。
我が国の昔のグリーフケアでは、お亡くなりになる赤ちゃんとお母さんの対面はご法度で、赤ちゃんの死はタブーとして封印されてきた歴史があります。
近年はそうではなく、真相究明を大事にしようという考え方が主流となってきたこともあり、赤ちゃんの死がマスメディアで取り上げられる頻度も高まったのでしょうね。
 

SOLANINは、裁判になっている全ての事例の詳細を知っているわけではありませんが、この胎外生活に適応するまでの時間帯の観察が、今一つ行き届いていないことが、急変発見の遅れと取り返しのつかない事態の発生ではないかと睨んでいます。
「あ~、元気に生まれてきてくれた。良かった。これでやれやれだわ・・・」ではないのです。

これからカンガルーケアを継続していくには、今まで以上に医療者が「この赤ちゃんはカンガルーケアをしても大丈夫かしら?」という判断力を磨いていかねばならなくなるでしょうね。
例えば、産声は超元気でアプガ―スコアもOKだったとしても、羊水が混濁していたとか、心音が低下している時間がかなりあったとか、分娩時間がとても長かったとか、お母さんが酸素吸入していらしたという場合は、そうではない場合よりも赤ちゃん呼吸状態が不安定になりがちです。
そういう場合、その赤ちゃんはカンガルーケアをしてもいいのか止めておくのかという判断力を身に付けなくてはなりません。(それを磨く時間が無ければ、細密な基準を作らねばならないでしょう。)
複数の安全対策を講じることが求められるでしょう。
また、カンガルーケアをするのかしないのか、予め妊婦さんから同意書を取らせていただくこともも必要になるでしょう。
 

しかし、分娩受け入れ施設の集約化で、人手不足の病産院は少なくなく、常にお母さんと赤ちゃんの真横にドクターや助産師や看護師さんが張り付いていることは事実上不可能です。
ですので、安全対策として、決してお母さんと赤ちゃんのふたりぼっちにしないことと、忙しいならせめて器械片付けや次の器械の準備をしながら、お母さんと赤ちゃんの気配を察しつつ、時間を見計らってこまめに観察することや、赤ちゃん全例にSPO2モニターを装着して、お母さんだけではなく、お家の方にもきちんSPO2モニターの説明をして、「何か変だな?」と思ったら、迷わずにナースコールしてもらうことを徹底し、急変発見時に迅速に対応できるような救急蘇生キットの常備をしていくことで、不幸な事態は相当防ぐことができるのではないかと考えます。
カンガルーケアとはどういうものなのか、どうしていけばいいのか、他人任せにせず、よ~く考えて決断していきましょう。

追記:最近は出生直後の行為はカンガルーケアとは表記しません。
STS(Skin To Skin contact)と表記します。
元来NICUでされてきた行為をカンガルーケアと表記しています。
(2014年7月27日12時00分00秒)

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